はじめに 〜朝が始まる、その手前で〜
夜と朝のあいだにある、わずかな静寂。
空がほんのりと色づき、風がやさしく動きはじめるそのとき、世界はまだ目を覚ましていません。
そんな時間に、そっと咲き始める白い花々。
今回の作品は、夜明けの静けさの中で、命が目を覚ます瞬間を切り取った一枚です。
目をこするように、そっと咲く
光に導かれるように、ひとつまたひとつと顔を出す白い花たち。
まるで目をこすりながら「おはよう」と言っている子どもたちのように、あどけなくも、可憐に咲いています。
深い赤を帯びた空は、もうすぐ始まる朝を告げています。
けれど花たちはまだ夢の中にいて、完全には目を覚ましていない——その曖昧な境界の美しさが、この作品には宿っています。
ちゃめっ気と希望をそっとのぞかせて
ひとつひとつの花は、どこか個性があって、ちゃめっ気を秘めた表情にも見えます。
揃って空を仰ぐのではなく、それぞれが好きな方向に身を向けている様子も、どこか自由で、子どもらしい。
この花たちが本当に目を覚ましたとき、どんなに賑やかな朝がやってくるのでしょう。
想像するだけで、心が明るくなってくるようです。
夜が明ける前の、いちばん静かな時間
やがて太陽が顔を出し、空が澄みわたるころには、この花たちはきっと満開になっているでしょう。
でも今はまだ、夜明け直前の静かな時間。
自然の中にある「はじまりの予感」は、強い主張はしません。
それでも、見る人の心にそっと火を灯してくれる。
この作品には、そんな希望の種のようなものが、やさしく埋め込まれています。
結びに 〜静けさの中にある、無垢な目覚め〜
和花写流が切り取ったのは、ただ咲いている花ではなく、咲こうとしている命の瞬間です。
凛とした潔さも美しいけれど、こうして子どものような表情で目覚めていく姿もまた、見る人の心をやわらかく包んでくれます。
この作品に流れる静けさややさしさは、花・背景・光の向きや色調といった、すべての要素がひとつに調和するように丁寧に構成されたものです。
それは、和花写流において大切にしている「目に見えない整い」のようなもの。
夜明けとともに、世界も、そして私たち自身も少しずつ目を覚ましていく。
そんな日々の始まりに寄り添ってくれるような一枚です。