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しばし、花の上でおやすみなさい——ハッチへ
どれほどの年月が過ぎたでしょうか。母を求めて旅を続ける、みなしごハッチ。その小さな羽音が、ある日、私の花の上にふわりと降りてきました。
あなたは今、ほんの少しのあいだだけ、悲しみも疲れも降ろしていいのです。ここにはあのタガメ君はいませんが、静かな水面に花が咲いているだけです。
「僕は大きくなると、キミを食べたくなるから」
忘れられないのは、あの別れのシーン。
ハッチとタガメ君が力を合わせて怪物を倒したとき、その正体が、タガメの父親だったことに誰もが胸を痛めました。
そしてタガメ君は言いました。
「僕は大きくなるとキミを食べたくなるから、近づいちゃだめだ!」
涙をこらえて背を向けた、たった今まで友だったタガメ君。自然というものが、どんなに美しい友情でさえも分けてしまう現実がそこにありました。
花の上で語られる、ほんのひとときの救い
そんな過酷な世界の中で、花は何もできません。けれど、こうしてハッチが一度だけ羽を休めたとき、
「大丈夫だよ」と、そっと語りかけてあげたい気持ちが芽生えます。
花の命は短く、そしてただ咲くことしかできません。
でも、その一瞬が誰かの心を支えられるのなら——それは小さな奇跡なのかもしれません。
「去らなくても、きっとなんとかなるよ」と思っていた
わかっています。
自然は、そんなにやさしくない。けれど、それでも私は思うのです。「去らなくても、きっとなんとかなるよ」と。
それは、自然の摂理を知らぬ者の甘さかもしれません。
けれど、そう信じてしまうのが、人や花や虫たちが持つ“希望”というものなのではないでしょうか。
花は知っている。痛みを、やさしさを
みなしごハッチは、また旅を続けていくでしょう。
新しい出会いがあり、別れがあり、傷つくこともあるでしょう。でも、どうか覚えていてください。
ここに一輪、あなたが羽を休めた花があったことを。そしてその花が、あなたの悲しみと、あなたのやさしさを、ちゃんと感じていたということを。