Contents
満月の青じろき光の中、可憐な花が狂気をはらむとき
夜の帳が静かに降り、満ちた月が空に浮かぶころ。切り株から伸びた白い花が、青白く滲む光のなかにそっと咲いていました。
その姿はあまりに可憐で、まるで祈るような静けさを湛えていたけれど、じっと見つめているうちに、ふと胸の奥にざわめきが広がってきます。
これは美しさの極みなのか、それとも——満月という強い象徴に導かれて、心の深くにある“何か”が、花を通して現れたのかもしれません。
月が照らす、静けさの中のざらつき
満月の光は優しくもありながら、ときに冷たく、容赦なく対象を浮かび上がらせます。
白い花びらが青じろく染まっていくその様は、まるで花が何かに支配され、心の奥を暴かれていくような感覚を覚えます。
和花写流では、自然の美しさだけでなく、そこに潜む感情や緊張、時には“予感”までも静かに写し取っていきます。
この作品もまた、満月の光と向き合うことで、花の中に潜むもうひとつの顔が浮かび上がってきたのかもしれません。
可憐な姿が揺らぎ始めるとき
一見すれば、ただ凛として咲く白い花。しかしその輪郭には、ほんのわずかな“揺れ”が宿っています。風が吹いているわけでもないのに、花はどこか落ち着かず、まるで内側からざわめいているかのようです。
それは花が抱える「純粋さゆえの危うさ」。理性と感情の狭間で、まだ名を持たない不安が、月の光によってかすかに色づいてしまった瞬間です。
美と狂気、その境を越える前に
すべてが静かで、すべてが整っている——なのに、なぜか心がざわつく。この花がこれ以上美しくなってしまったら、何かが壊れてしまうのではないかという一抹の怖れ。
花の可憐さは、そのまま危うさでもあり、美しすぎるということは、ときに人の心を深く惑わせる。
それを私たちは“狂気”と呼ぶのかもしれません。
静けさのなかに宿る、かすかな翳り
和花写流では、花をただ「きれい」に生けるのではなく、その場の空気、光、そして花の奥に潜む気配までも表現の一部としています。
この作品もまた、満月の静けさに寄り添いながら、その光に照らされた花の揺らぎを映したもの。
そこにあるのは、美と狂気の境界線——見る者の心の揺らぎが、この花にそっと重なるようにと願って、生けた一枚です。